ダンナの悪口
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社長、上司が「あの人はすごい!」といわれるピカイチ情報
労務管理に奇策なし!大企業20年、中小企業13年 人事労務畑一筋で
現場をはいずりまわった人事労務担当者が中小企業経営者のために語る
作者: 中川清徳 2013年7月14日号 VOL.1565
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[エジソンの名言|優れた発明に不可欠なもの]
(続きは編集後記で)
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ダンナの悪口
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『ダンナの悪口(ココロのメルマガ小説)』志賀内泰弘
「いやだぁ~」「アハハハハ」今日も休憩室に、オバチャンたちの笑い
声がこだました。水口昌子は、食材加工工場でパートをしている。 サトイ
モやニンジンの皮を剥き、一口サイズに切る。その後、茹でてパックに詰
め冷凍にする。もちろん、好きでやっているのではない。じゃあ、お金の
ためか。たしかに、月に十万円近くになるので家計は助かっている。でも、
何より、パート仲間六人とのバカ話が楽しくて仕方がなかったのだ。すぐ
近所に住む加藤美智子に誘われて始めたのだが、もう三年も続いていた。
三時になると、みんな走るようにして休憩室に駆け込んでお茶を淹れる。
誰ということなく、持ってきたお菓子を摘む。
「うちの亭主がさあ~」と切り出したのは、一番のベテラン、井戸典子だっ
た。
「この前の日曜日にさあ、一緒にデパートに行ったのよ。電車であの人だけ
空いている席にスウ~と座ったのね。〝なんで一人だけ座るのよ〟って腹が
立ったんだけどね」みんな興味深々に前のめりになって聞いている。典子の
話には、いつもオチがあることを知っているからだった。
「なんで、〝お前座れよ〟って言えないのかしらねぇ。ムカッときちゃって。
何か話しかけたみたいだったけど、他人のフリして窓の外を見てたのよ」
「うんうん、それで?」と誰かが言う。
「そしたらね、亭主の隣に座っていた女子高生がね、急に鼻を押さえて立った
のよ」
「なに?」
「それでね、亭主の方を睨んでこう言ったの。『臭せえんだよ!』けっこう大
きな声でね。その女の子の仲間の二人も、『嫌だ~』って立っちゃったもんだ
から、周りの人がこっちを注目してさあ」
「何なの、それ。オナラ?」
「加齢臭よ、亭主の」
「あ~あ、嫌だあ」
「うちもよ。孫がさあ、せっかく遊びに来ているのに、『おじいちゃん臭い』っ
て言って近づかないのよ」典子が言う。
「だからさ、いつも言ってるのよ、オーデコロンくらい付けなさいって」
「それも大変よ。加齢臭とコロンが混じったら、よけい臭いんじゃないの」
「ハハハハ」みんなが大笑いした。
今日もダンナの悪口大会だ。これがストレス発散には一番。昌子も、ちょっと大
袈裟に夫の悪口を言う。何しろ、世間で言う典型的な「フロ、メシ、ネル」タイ
プの男だから、山ほど不満を抱えている。別に、夫婦仲が険悪というわけではな
い。それは、ここにいるみんなも同じはずだ。でも、ダンナの悪口ほど盛り上が
るものは、この世には他にない。しかし、今日の昌子は、ちょっと違った。笑わ
ない。
いや、笑えなかった。「アハハハハ...」みんなの笑い声の中で、心ここにあらず
という感じだった。
日曜日の夜のことだった。大河ドラマを見終わると、夫の司朗がポツリと言った。
「オレ、ガンかもしれん...」
「え?何を突然言うのよ」
「この前からさあ、胃が痛いって言ってるだろ」
一ヶ月くらい前から、小食になっていた。ときどき、胃を押さえている。キリキリ
と痛むらしい。会社の保険医で胃薬をもらってきた。飲み続けたが、いっこうに治
らない。
「オヤジの家系がさあ、みんな胃ガンだったからなあ...」
「何言ってるのよ」
「なんか、オヤジが血を吐く前の様子にそっくりなんだよな...」
司朗は五十七歳。大手の電気部品メーカーに勤めている。何度も行われたリストラの
波をくぐり抜け、本社で部長をしている。その代わり、休みというものがほとんどな
い。休日も出張か接待ゴルフだ。普段は、「フロ、メシ、ネル」くらいしか言わない
が、娘が嫁いだ頃から、「定年になったら二人でゆっくりと海外旅行でもしようか」
と言うようになった。仕事でくたびれているのがよくわかった。
「何言ってるのよ、勝手に自分で決めちゃダメよ」
「......」
「去年の人間ドッグは何でもなかったんでしょ」
「いや、去年も一昨年も、急に出張が入ってキャンセルしてる」
「え...!?」
司朗がテレビのスイッチを切った。家の前を通り過ぎた車の音が、まるですぐ近く
のように聞こえた。昌子は司朗のお尻を叩いて、無理やり休暇を取って病院で検査を
受けさせることにした。朝食を抜き、ちょっと早めに家を出る。いつもより胃が痛む
らしい。ずっと左手をお腹に当てて、顔をゆがめている。
「大丈夫よ」と笑って送り出したが、そう言う昌子自身の顔が強張っていた。パート
の仕事を終えて、自転車でスーパーに向かった。このところ、司朗のために消化の良
い献立に心掛けていた。(もし、ガンだったらどうしよう...)昌子も、叔母をガンで
亡くしていた。検
査した時には、あちこちに転移しており、もう末期だった。それか
ら、わずか三ヶ月でこの世を去った。(まさか、後三ヶ月なんて...)
スーパーで買い物カゴを手に、涙があふれて来た。その時だった。
(え!?)
一番奥のお肉売り場の前に、見覚えのあるスーツ姿の男性がこっちを向いて立って
いた。口には、楊枝の刺さった試食ウインナーをくわえている。
司朗だった。目が合う。司朗は、口をもぐもぐとさせながら、両手を上に上げた。
(?)
そして、その両手で、大きな丸を作った。涙が滝のように流れてきた。昌子は、もう
悪口を言うのは止めようと思った。
(中川コメント)
本日の記事は「プチ紳士からの手紙」の転載(許可済み)です。
今日はここまで。では、またあした。
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編集後記
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[エジソンの名言|優れた発明に不可欠なもの]
技術的に優れているだけでは、優れた発明ではない。他人が欲しがる技術が
優れた発明なのだ。つまり重要なのは、有用性だ。有用性を持った発明をつ
くりださなければならない。
では、また明日お会いしましょう!!
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