【今月の経営格言】極論すれば、すべてがうまくいっていれば変化が

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 【今月の経営格言】極論すれば、すべてがうまくいっていれば変化が
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◆今月の経営格言
 『極論すれば、すべてがうまくいっていれば変化が必要ない
   のですから、誰がリーダーでもよいのです』
   カルロス・ゴーン(日産自動車株式会社取締役会長兼社長) 
  出所:「日経ビジネス(1693)」
          (日経BP社)
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冒頭の言葉は、
「リーダーとは変革を導く人のことである」
 
ということを表しています。
2017年3月末をもって、日産自動車の社長を退任することになっ
たゴーン氏。引き続き代表権のある取締役会長を務めるものの、
次のステージを見据えた動きであることは間違いないといえ
そうです。
短期間で日産自動車の経営再建を果たしただけでなく、その後
も堅調に会社を成長させてきたことなどから、ゴーン氏の経営
手腕は高く評価されています。特に、日産自動車の経営再建時
に「ケイレツ」取引を見直したことや、部門間の情報共有を
促進するためのクロスファンクショナルチームを組成したこと
が注目されました。
そのため、ゴーン氏といえば、旧態依然としたものを破壊し、
新しく組織を生まれ変わらせる、力強いリーダーというイメージ
が定着しています。しかし、実際にはゴーン氏は複数のリーダー
シップを使い分けていたようです。 
例えば、短期間で黒字化を達成するという目標を掲げた際は、
それを達成するために、いつまでに、何をすべきかをゴーン氏
が自ら具体的に示したといわれています。一方、リバイバル
プラン(経営再建プラン)を策定した際は、クロスファンクショ
ナルチームのメンバーに積極的に相談して意見を出してもらい、
その声をプランに反映させました。このように、状況やメンバー
などによってリーダーシップを使い分けることができたからこそ、
ゴーン氏は日産自動車に、経営再建にとどまらない変革をもたら
したのかもしれません。
一方、いかにゴーン氏が優れたリーダーであっても、日産自動車
のような大企業を一人で動かしていくことは不可能です。ゴーン
氏にはない視点で同氏を支える経営幹部や後継者などの存在が
欠かせず、そうした人材を育てることもリーダーに求められる
重要な資質となります。
ゴーン氏は今回の社長退任のかなり前から、次世代リーダーを
育成することの重要性を指摘し、実際に時間をかけて年齢や
タイプの異なるリーダー候補を育成してきています。ゴーン氏を
長年COOとして支えた志賀俊之(しがとしゆき)氏や、2017年4月
から社長を引き継ぐ西川廣人(さいかわひろと)氏などがそうです。
経営者なら、次世代リーダーを育成することの重要性を認識して
いないはずがありません。ところが、「今の社員の中には、次世代
リーダーの候補はいない。イエスマンばかりで自分の意見がない」
と嘆き、具体的な育成をしていないことがあります。
しかし、そのように諦めていてはいつまでたっても次世代の
リーダーは育ちません。また、社員がイエスマンになっているのは、
経営者が原因かもしれません。ここで、冒頭とは異なるゴーン氏の
言葉を見てみましょう。
「私は、基本的に『根っからのイエスマン』などという人はいない
 と思っています。それにもかかわらずイエスマンがいるのは、
 企業が結果的にその人をイエスマンにしてしまっているからです」
実は、イエスマンを作っているのは経営者自身かもしれないという
指摘です。自分自身の過去を思い返してみれば、当時はそのときの
経営者の考えや組織の体制に批判的な意見を持ち、衝突しながらも
改善してきたのではないでしょうか。そうした姿を周囲は見守り、
時には応援してきたはずです。
もう一度社内を見渡してみれば、良い意味での反骨精神を持った
社員が必ずいるはずです。そうした社員が自由に活動できる
フィールドを用意して見守ることも、経営者の大事な仕事です。
最後に付け加えます。ゴーン氏が社長を退くことに対する意見は
立場によって異なるものの、「グループ全体の戦略に注力でき、
多忙なゴーン氏にとっても好ましい」といった好意的な意見も
あります。日産自動車のような大企業の代表交代は、世間に相応
の影響を及ぼします。しかし、次世代リーダーをきちんと育成
してきたからこそ、企業のさらなる成長を期待してくれるファン
が生まれるということも忘れてはなりません。
【本文脚注】
本稿は、注記の各種参考文献などを参考に作成しています。本稿
で記載している内容は作成および更新時点で明らかになっている
情報を基にしており、将来にわたって内容の不変性や妥当性を
担保するものではありません。また、本文中では内容に即した
肩書を使用しています。加えて、経歴についても、代表的と思わ
れるもののみを記載し、全てを網羅したものではありません。
【経歴】
カルロス・ゴーン(1954~)。ブラジル生まれ。パリ国立高等鉱業
学校卒。2000年に日産自動車株式会社(本稿では「日産自動車」)
社長就任。2017年4月より、会長職に専任予定。
【参考文献】
「日経ビジネス(1693)」
 (日経BP社、2013年5月)
「グローバル・リーダーシップ講座 カルロス・ゴーンの経営論」
 (日産財団(監修)、太田正孝、池上重輔(編著)、日本経済新聞
 出版社、2017年2月)
「カルロス・ゴーン経営を語る」
 (カルロス・ゴーン、フィリップ・リエス(著)、高野優(訳)、
 日本経済新聞社、2003年9月)
(中川コメント)
 本日の記事は弊社が有料会員となっている「中小企業福祉事業団」の
ビジネスリポートの記事を転載しました。